20101023

パラダイム効果の壁・・・





最近、右片麻痺のクライエントSさんとの協業を思い出しました。私が老健に勤務していた頃ですから、もう8年が過ぎました。彼は旅行が大好きで、退所したら奥様と一緒に、まだ行っていない日本の各地を周ることを楽しみにしていました。車椅子レベルで排泄が見守りレベルになり、しばらく期間が経った時、介護スタッフから、もう自立で良いのでは?との提案がありました。しかし旅行が趣味のSさん。右麻痺用のトイレでのみ排泄が自立しても旅行先で困ると思った僕は、職員見守りで、左麻痺用・右麻痺用・職員用トイレをランダムに使用してもらうプランを提案しました。

旅行が趣味で、これから色々な場所で色々なトイレを使うかもしれないからという理由は勿論伝えました。しかし、そのプランは歓迎されませんでした。

その時の僕は、心の中で介護スタッフを批判しました。職員の都合でクライエントの大切な要素を重要視しない態度に憤慨してしまったのでした。

今思えば、明らかに僕の働きかけが不十分だったのです。昔から旅行が大好きで、夫婦でいつも旅を楽しんでいたこと。自分が片麻痺になったことで、妻を旅行に連れて行けないことを、とてももどかしく思っていること。車椅子で旅行に行くにあたり、なるべく妻に身体的負担をかけない交通手段や旅館をいつも雑誌で調べていたこと・・・・様々な彼の想いを僕は発信していませんでした。

専門職はそれぞれの専門性の視点でクライエントを見ています。そのパラダイムを自身の中に持っているからこそ、目の前の現象の解釈が生まれます。同じ現象をみても、どのパラダイムのメガネを通して見るのかによって、見え方は全然違います。自分のメガネで見たものが、伝わらないからと想いを強要するのでは、余計に価値の共有は遠のいてしまいます。

現在、あらゆる医療現場で”連携”という言葉が飛び交います。その手段を模索する時に、必ず”更なる情報の共有”という方程式が暗に出来上がってしまっている印象があります。しかし僕には、飛び交う情報量が決して少ないとは思えないのです。

真の連携とは、情報量で決まるのではないと”今の”僕は思います。ある情報”A”に対する、それぞれの職種が抱く”価値”のズレを少なくすること・・・協業のヒントはここにあると考えています。その為には、表面的な情報量を増加させるのではなく、発信した情報が、クライエントにとって、どのように有益なのか?どのようなクライエントの肯定的変化を生む可能性があるのか?そしてそれは何故なのか?をしっかりと伝え合うことが重要なのだと思います。






4 件のコメント:

  1. おはようございます。
    昨日、こないだ話してもらったことを振り返りながら
    内容の遷移図もどを作ってみました。
    (いつものノートなので、遷移字、ですが・・・)
    もう少しがんばってみるのでまた見てください。

    返信削除
  2. kibiさんおはようございます。
    あの内容は発信する価値のあるものだと
    僕も思います。また検討しましょう。
    遷移見せてください。
    ウチのエースも無事帰ってきたみたいだね!

    返信削除
  3. 情報の量より質.
    勉強になりました!

    返信削除
  4. tomoriさん有難うございます。
    今、病棟で色々な取り組みを皆で行っています。
    このような課題への取り組みは、内容も重要ですが
    定期的に行うことが必要な気がします。

    返信削除