20120920

理論が苦手な方に…カナダモデル編


「理論」という言葉を聞いただけで,頭を抱えるセラピストも少なくないと思います.
必ずしも理論が必要だとは思いませんが,理論を知り,かつ上品な使い方をすれば(笑)
理論は実践を効果的にしてくれる強い武器になります.
今日は代表的な作業療法理論のひとつであるカナダモデルを簡単に紹介します.




作業療法における主要広範囲理論のひとつであるカナダモデルは,
Canadian Model of Occupational Performance & Engagementの略です.
日本語では,「作業遂行と結びつきのカナダモデル」と呼ばれています.




カナダモデルでは,「人」を正三角形で表現しています.
なぜ正三角形かというと,それは「多様性と安定」を表現しているからです.
正三角形よりも角の少ない多角形は存在しませんよね.
最も角の数が少なく,かつ全ての辺の長さが等しい正三角形は,
「多様性と安定」を両立する象徴的な図形なのです.




カナダモデルは正三角形の3つの角に,認知・身体.情緒を設定しています.
これは,人をどのような側面から捉えるかを表しています.




「多様性と安定」を両立する形として,正三角形で人を表現しているわけですが,
人は,ひとりとして同じ人はいません.自分自身も,目の前のクライエントも,
全ての人は,たった1人の唯一無二の存在なのです.それを表現するために,
カナダモデルでは,正三角形の中心に「スピリチュアリティ」を設定しています.
過去に「スピリチュアリティとは何か?」という議論が白熱したことがありました.
しかし現在ではスピリチュアリティの定義自体は主要な関心ごとではないようです.




次は「作業」について確認していきます.
カナダモデルでは「作業」を円で表現しています.
作業の分類は,「セルフケア,生産活動,レジャー」の3つです.
分類については,他のモデルや多くの理論家が,複数の分類を提唱しています.
カナダモデルの分類は,非常にシンプルです.




次に「環境」について見ていきます.
カナダモデルでは,環境を「物理的,制度的,文化的,社会的」と4つの側面に
分類しています.「作業」の分類同様に,とてもシンプルです.




もう一度おさらいします.カナダモデルでは,
「人」を「認知・身体・情緒」
「作業」を「セルフケア・生産活動・レジャー」
「環境」を「物理的・制度的・文化的・社会的」
このような側面で捉えようとしています.
この「人・作業・環境」をカナダモデルでは重ねています.




このように重ねてみました.この図から何を読み取りますか?
「人」が「作業」を介して「環境」に結びついていることがわかります.
1997年に発表されたカナダモデルはここまででした.
当時は,Canadian Model of Occupational Performance : CMOPと呼ばれました.

CMOPの発表から10年後の2007年,CMOPは改定されました.それが冒頭で表記した,
Canadian Model of Occupational Performance & Engagement : CMOP-Eです.
上記の図に,新たに図がひとつ追加されたのです.




CMOPの図の右側に,新たに図が追加されているのがわかります.
この図は,左の図を真横から見ている図です.なぜ横を向けたのか?
人・作業・環境の重なり方を見てください.

環境に作業がめり込んでいます.そして作業に人がめり込んでいます.
環境自体にも人がめり込んでいますが,それはほんの僅かです.

つまり,人は作業を通して環境と強く結びつくことができるのです.
言い方を変えれば,作業を通して環境と強く結びつくことを
真の「作業の可能化」と呼ぶのだと定義しているのです.

想像してみてください.
みなさんには,大切な家族がいるでしょう.
一緒に食事をしたり,子供とお風呂に入ったり,一緒に外出したり…
家族と色々な作業を共にしているはずです.

みなさんには,大切な職場の仲間がいるでしょう.
クライエントの話を議論したり,発表の準備をしたり,昼休みに談笑したり…
仲間と色々な作業を共にしているはずです.

自分の大切な環境を想像してみると,
そこには必ず必要な作業が存在しています.
また,その作業をその環境で遂行できることで,
私たちは特定の役割を担うことができています.

だから作業ができるということは,
単に作業に必要な動作ができるということではなく,
大切な環境に結びつくために必要な役割を遂行できるということなのです.

カナダモデルは,シンプルながらもその事実をとても力強く表現しています.




もう一度CMOP-Eの図を確認してみます.
実はこの図は,作業療法の対象領域も表現しているのです.
わかりやすいように上下の部分を暗くマーキングしてみました.
右の図を見てください.作業の幅だけを残して上下を暗くしています.

つまり,人・作業・環境が結び付くことを支援することが作業療法士の仕事であり,
それを実現するためには,人への介入(機能訓練など)も,環境に介入することも
作業療法の対象領域であると言っているのです.

反対に暗い部分,つまり人・作業・環境の結びつきに関係のない人への介入や
環境への介入は,作業療法の対象ではないと言っています.

長くなってしまい申し訳ありません.
勉強されている方にとっては当たり前の内容ばかりだと思います.
でもCMOP-Eは,極めてシンプルでありながら,作業療法の本質を力強く表した
素晴らしいモデルであり,日本型の作業療法の概念をも包括できる,
日本の作業療法士にとってとても親和性の高いモデルであると僕は思っています.

僕は特定の理論に対して,決して「信者」にはなりません.
良いものはどんなものでも使いたいし,どんな物でも排他的に扱いたくないからです.
あくまでも,僕の好きなものの「ひとつ」として今日は紹介しました.

おわり
















2 件のコメント:

  1. ご無沙汰しております。
    近々、2年生の講義でCOPM紹介・実践、CMOP-Eの紹介をします。学生達に何を教材にして伝えていこうか苦慮していた時、侍さんのブログだ!と思いつきました。
    本当にいつもストーリーがあって、分かりやすいブログ(説明)に脱帽です(笑)
    勝手ながら、カナダモデルのブログを学生に紹介させていただければと思います。
    学生には福島に侍がいるぞ!といつも伝えております(笑)
    またお世話になります。宜しくお願いいたします。

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  2. navexさん!大変ご無沙汰しております.相変わらず熱い先生してますね!(笑)
    僕の書いた記事が学生さんのお役に立てるならば,どうぞご自由にお使いください.
    CMOP-Eだけでなく,CMCEやCPPFなど,カナダモデル関連は全てスライドにしてありますので,
    必要であればメールください.いつもありがとうございます☆

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