20110210

運転がしたいんじゃなくて、512TRが運転したいから・・・




フォルクスワーゲン・カルマンギア。今僕が購入を検討している車です。僕は今も古い車を大切に乗っています。保育園の送迎の無い妻の休日のみ通勤に使っていますが、大分維持がつらくなってきました。このカルマンギアは、従兄弟が現在所有しています。譲ってもらえるように現在長期交渉中です。この車を、艶を抑えたシルバーに全塗して、ワタナベのホイールを履かせて乗りたいです。


今の車は壊れないし快適です。軽自動車でも相当イイんだと思います。でも僕は古い車が大好きです。いつ壊れるかもしれない不安を同居させながらも、お気に入りの車で通勤する日は、それだけで土曜日の午後のような感覚質が僕を包んでくれます。


昔、僕がGTRのメンテナンスを任せていたショップのファクトリーの奥に、フェラーリ512TRが置いてありました。社長に話しを聞くと、片足を切断されたオーナーの依頼で、改造をしているとのことでした。


今のフェラーリは、F1マチック(2ペダルのセミオートマ)が主流ですが、当時は、フェラーリにオートマチックは殆ど存在しませんでした。左足に大腿義足を履くそのオーナーには、フェラーリの重いクラッチは踏めません・・・社長はそのオーナーと協議をして、アクセルを離してシフトノブを握ると、握ったときに発生する静電気でクラッチを切るというシステムを採用することにしたのだそうです・・・


その時の社長の言葉が印象に残っています・・・


「今は障害者が車を運転するなんて簡単なんだ。どんな改造だってできる。でも運転するだけじゃなくて、好きな車に乗りたい人がいっぱいいるんだよな~。そうなると簡単にはいかないときもある。でもそれって大事だよな~。車に乗りたいんじゃなくて、”あの車”に乗りたいんだよな~。だからよ~俺が作るしかね~だろ~」


その時僕は、今までクライエントと運転の相談をするときに、どうすれば遂行可能になるかばかりを話し合ってきたことにハッとしました。


運転だけではありません。意味ある作業を共有したら、その作業が何故大切なのか?どのように遂行したいのか?誰のために遂行したいのか?その理由やストーリーを共有しなければ、再び意味ある作業になり得ない可能性も高いのです。


フェラーリ512TR。TRはテスタロッサの頭文字です。テスタはイタリア語で”頭”。ロッサは”赤”です。エンジンのヘッドカバーが赤く結晶塗装されているのがその由来です。シフトノブは金属の削りだしで、Hパターンのシフトゲージは、決して操作性は良くありません。12気筒のエンジンは、すぐに悲鳴を上げます。一昔前のイタリア車のタイミングベルトは、回転に比例してテンションが強まる構造になっているので、1万キロ毎に交換が必要です。使いづらい、壊れやすい、段差は越えられない・・・不便の塊のようなこの車を、あのオーナーは運転したいのです。そしてそれを可能化する男がいたのです。


クライエントの大切な作業を、僕達はもっともっと立体的に知らなくてはいけないと思いました・・・
そして、その作業を可能化するための支援の術を、もっともっと身につけたいと思いました・・・


世の中には、効率性や安全性では量れない意味・価値あるものが沢山溢れています。そんな一見無駄なものの中にも輝きが沢山溢れています。それが嗜好であり、こだわりであり、個別性なのです・・・















その作業・・・もう一度できればそれでいいの?



3 件のコメント:

  1. ナヴェックス2011年2月11日 11:37

    侍OTさん、お邪魔します。こちらではお初です!

    「車に乗りたいんじゃなくて、”あの車”に乗りたいんだよな~」

    シビレます、グッときます。

    あたかも、形だけで満足しがちですが、そこにある意味や、作業の質みたいなとこも我々は求めていかなくてはいけませんよね!

    最近あるパティシエの方と話した時、「ケーキ」が持つ意味・効果というのをケーキに関しては無知な私ですが説明しました。ケーキが人との繋がりを生み、ケーキを媒介に話が弾み、ケーキを通して継続した交流が生まれる、みたいな、上手く説明できませんでしたが、納得されていました。

    作業の持つ意味を知ることでまたその作業が好きになる。
    形としてケーキを作るだけではなく、そこから広がる可能性を想像しながら作るケーキ。

    OSを学び始め、そんなことを考えるようになりました。

    OTって誰にでも、普遍的に語れる職なんだなあと改めてその醍醐味を実感している今日この頃です。

    またお邪魔します!

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  2. ナヴェックスさん お久しぶりです。
    コメント有難うございます。

    同じ作業でも、その意味は遂行する人それぞれで、皆違います。そして、その意味は、普遍的に固定されることはなくて、環境や成長などによって、絶えず変化し続けるものですよね。そのパティシエの方にとって、スイーツを作るという作業の意味はどんな意味なんでしょうね!その方に聞いて、一緒に外在化していかなければ僕にはわかりませんが、きっとキレイなケーキを作ること自体が好きだったり、誰かの喜ぶ顔が見たかったり、アイデンティティだったり・・・もしかしたら何か大きな夢があって、そのためのステップだったり・・・

    この作業にはこんな意味がある・・・あの作業にはこんな意味がある・・・そんなふうにシステム化することが決してできない個々の大切な作業の意味・・・そこにしっかりと寄り添う、そして支援するということがOTの醍醐味であり、難しさですね。

    しかしナヴェックスさん熱いですね~。
    実習報告でも吼えてましたね (^_^)
    ナヴェックスさんのような先生に習った学生さん達が
    未来のOTを明るくしてくれるんでしょうね!
    応援しています。

    また熱いコメントお待ちしております。

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  3. ナヴェックス2011年2月13日 21:43

    熱いですかね~(笑)
    僕自身もそうですが、学生は自分の目指す職の専門性を理解していません。どの職でも経験する中でそのアイデンティティを高めていくのでしょうが、OTとして先輩である僕らがしっかりと日々学生に伝えていくことが大切だと思います。
    ほとんどの学生が最初に出会うOTは僕ら教員ですから!

    コメントは時間に余裕のあるときにしかできませんが、侍OTさんのブログは欠かさずチェック?しています。
    侍OTさんのブログを通して僕もまた勉強させていただきます!

    今後も楽しみにしていますね!

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