20110123

つみきのいえ


今日は娘と一緒に、久しぶりに”つみきのいえ”を観ました。


小さな家に1人で暮らすおじいさん。この家は海に囲まれています。少しずつ海面が上昇してきており、家の中に海水が浸水してくると、おじいさんは、屋根の上に新しい部屋を増築します。増築の度に床の真ん中にマンホールのような蓋を作り、その穴から釣り糸を垂らしては魚を釣り、自分で料理して食べていました。


長い年月をかけて少しずつ上昇する海面・・・何度も、何度も、おじいさんは増築を繰り返してきました・・・もう周りの住人は、皆引っ越してしまい、辺りで暮らしているのはおじいさん1人です・・・


ある日、おじいさんは、部屋の真ん中の穴からパイプを落としてしまいます。そのパイプは、長年愛用してきた大切なパイプです。毎日3回、パイプの煙を楽しんできたのです・・・


おじいさんは、穴から下の階に潜ります。幸いにもパイプは下の階ですぐに見つかりました・・・そこに広がっていた景色は、先に亡くなったおばあさんとの思い出がたくさん詰まった部屋でした・・・


おじいさんは、更に下の階へと潜っていきます・・・娘夫婦や孫達と記念撮影をした部屋・・・娘が初めて彼を連れてきた部屋・・・娘が大人になり、1人暮らしをするために、家を出ていった時の部屋・・・下の階へと潜り進むにつれて、どんどん思い出と共に時間が巻き戻ります・・・その全ての思い出の傍らに、おばあさんの姿がありました・・・


今の自分の住む部屋に戻ったおじいさんは、ワイングラス二つに、赤ワインを注ぎます・・・身体に悪いからと、おばあさんから一日一杯だけと言われたワイン・・・3回だけと言われたパイプ・・・おじいさんはちゃんと約束を守っています・・・


僕のクライエントの殆どは高齢者です。若い人達に比べたら、表面的には静かに毎日を繰り返しているように見えるかもしれません・・・しかし今まで何十年という作業経験が彼らの過去には存在します。その作業経験が、今の自分を構成している作業にかけがえのない意味や価値を付加してくれています。どんなに地味で静かな作業でも、その作業には大切な意味があるかもしれません・・・譲れないプライドがあるかもしれません・・・その人にしか分からない価値が内包しているかもしれないのです。とっても大切な意味がある作業でも、他人から見れば現象的にはたいしたことが無い・・・意味ある作業ってそんなものです・・・だからクライエントも気付くのが難しいのです。


意味ある作業を共有するということは、クライエントが好きだった作業項目を共有するということではありません。作業と、その作業をする目的・意味・価値・理由・ストーリーを共有して、初めて協業の足がかりとなるのです。作業療法士との協業によって、クライエントは自分の作業の大切さを改めて確認できます。おじいさんの様に、作業療法士もクライエントと一緒に、下の階に潜る作業が大切です・・・


おじいさんは、たった一人で”つみきのいえ”に住んでいます・・・それは、大好きな家族との思い出が沢山詰まった家だからです・・・ワインを一日一杯だけ飲むのも、パイプを一日3服だけするのも、大好きなおばあさんとの約束だからです・・・





目の前にいるクライエントの意味ある作業ってなんだろう?









4 件のコメント:

  1. 福岡の作業療法士です。良いお話しありがとうございました。言われるようにその方の作業を一緒に探していければと思います。

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  2. 陽之さんはじめまして。そしてコメント有難うございます。みなさんOSAⅡやCOPM、非構成的な面接など、色々な手段で、クライエントの意味ある作業に寄り添う取り組みをしていると思います。協業過程において、OTが意味ある作業を把握するだけではなく、クライエントと一緒にお互いが確認するという要素を考えると、ADOCのようなイラストを効果的に使用して、自己の作業に目を向けるという手段は有効性が高いと感じています。ブログ訪問していただいて有難うございます。今後ともよろしくお願いいたします。福岡ですか~!イイですね(^_^)。リハケアで一度だけ行ったことがありますが、芋焼酎命の僕にとっては夢の国ですね~!

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  3. 田舎のOTです。
    小生のブログへのコメント光栄です。
    有難うございます。

    「価値」という言葉は作業療法の核だと思います。
    私のクライアントは、どちらかと言えばこどもさんが多いのですが、常にそれぞれのお子さんが遊びに見出している価値を読み解いていくことを最優先にしています。作業療法が訓練にならないためにも、、、、、

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  4. 田舎のOTさん。有難うございます。
    「価値を読み解いていく・・・」僕が対象としている高齢者の身体障害領域でもとても大切な要素ですね。意味ある作業を一緒に見つめて、作業できるようになること・作業することによって自分らしさを取り戻すこと。プロセスに含まれる意味や目的も共有するということを一番大切にしているわけですが、当然障害の程度や内容によっては、その協業プロセスが難しいクライエントも沢山いるわけです。そのときは、出来る限りの情報を収集したり、関わりの中での観察などから「価値を読み解いていく」ことが重要になりますね。小児領域であれば、当然その要素の比重は大きいでしょうね。小児では両親も大切なクライエントですね。両親とは、作業の意味や目的・何を望むのか?、なにをもって目的達成なのか?などのプロセスを協業し、子供に対しては、価値を読み解きながら介入していく・・・その子供に関わる全ての人や環境がクライエントであるという認識が必要になりますよね!「価値を読み解く」ステキな言葉を有難うございます。

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