20140603

「人を健康へと導く作業の力」と「想い考え感じる存在」と「実行する仕組み」




先週と先々週
1年生の基礎作業療法学で「花まり」を作りました.



4〜5人の共同作業で折り紙を使い
無事に作品が完成しました.



作品が完成した後で,レポート課題を出しました.
課題の内容は



課題:今回の作業は,どのようなクライエントに導入したら効果的だろうか? 例を1つ挙げ,説明しなさい.また,導入する際に,作業療法士としてどのような点に注意を払うべきか? 考えを書きなさい.



皆,それぞれ講義の内容を咀嚼しながら考えを記載してくれました.




上肢に障害のあるクライエントの機能回復として

上肢に障害のあるクライエントの健側の技能向上として

下肢に障害のあるクライエントが上肢を使用して自信を取り戻すため

座位が長時間とれないクライエントが作業に没頭することで

苦痛を感じずに体幹機能を強化するため

認知症のクライエントが過去を想起し充実した時間を過ごすため……etc



色々な例を挙げてくれました.
また,導入の際の注意点に関しても



心理面や環境との相互交流

成功体験の蓄積

難易度調整

季節感や馴染みの有無

雰囲気作り……etc



それぞれの考えを記載してくれました.


今日はレポートの返却日
全員に手紙を添えて返却しました








基礎作業療法学「花まり」レポートの振り返り

花まりの対象疾患

 身体障害,精神障害,発達障害,認知症…etc どのような疾患のクライエントにも適応できる作業です.大切なことは,その作業を導入するにあたり,作業療法士が何を考え,何に注意を払っているかです.

その作業の意義は何か?

目的作業としての導入
 もし目の前のクライエントが,その作業に対し,内的動機や必要性を感じながらも作業遂行障害を呈している場合,その作業は目的作業としての意義を持ちます.
手段的作業としての導入
 もし目の前のクライエントが,心身に障害を持ち,特定の機能の回復を目的に作業を導入するのであれば,その作業は手段的作業としての意義を持ちます.
実存的作業としての導入
 もし目の前のクライエントが,作業を剥奪され,作業的存在としての危機に陥っており,時間と空間を占領できる媒体を提供することを目的に作業を導入するのであれば,その作業は実存的作業としての意義を持ちます.

作業を導入する上での注意点は?

 注意点は,その作業を導入する目的から考えると理解しやすいと思います. 
 作業を目的的に利用し,その作業の可能化を目的とする場合,クライエント自身がその目的を理解し,目的を達成するために常に動機づけられながら自己解決能力を賦活され,それを体現化していくことができるような支援が必要となります.
 作業を手段的に利用し,特定の機能の改善や学習を目的とする場合,標的とした機能の改善や学習に寄与できるよう,綿密な課題の選択や難易度調整が必要となります.また,標的部位は限局していながらも,他の身体部位との協調性等にも目を向けながら,課題の内容を調整することが必要となります.
 作業を実存的に利用し,作業的存在としてのより良い体験の提供を目的とする場合は,クライエントが能動的に作業に従事しているか.防衛機制など,負の感情の表出を賦活していないか.その体験が,過去や未来のイメージや語りをまとめ上げる肯定的な因子となっているか.などが重要となります.
 当然,上記の3つの目的は,単独で採用される場合もあれば,同時に複数採用される場合もあります.

・おわりに

 つまり,作業療法士が作業を提供する際に大切なことは,クライエントに対して,どのような目的でその作業を提供しているのかということです. 
 その作業はクライエントが自ら希望してくれるかもしれません.クライエントが必要に迫られている作業かもしれません.過去に遂行したことがない作業の場合もあるかもしれません.また,作業的存在としての自己を客観視できないクライエントには,作業療法士が父権的に作業を選択し,提供しなければならない場合もあると思います.
 どのような場合であっても,その作業が「作業療法」としての価値を持つかどうかは,みなさんが,目の前のクライエントに提供する作業の目的を常に意識し,心理面や難易度を意識しながら課題や環境を適切に調整できるかどうかにかかっています.
 そのために,皆さんは,作業療法概論や基礎作業療法学などの「人を健康へと導く作業の力」を理解する知識,心理学や哲学などの「想い考え感じる存在」を理解する知識.解剖・運動・整理などの「実行する仕組み」を理解する知識が必要なのです.

                                                        齋藤佑樹





 

7 件のコメント:

  1. 作業を提供するのではなく、作業の機会を提供する、ですね。ここを間違うとクライエント中心の実践ではなくなります。

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  2. 匿名さま。コメントありがとうございます。読み返してみましたが、確かにおっしゃる通りだと思いました。若い学生に向けた言葉だからこそ、精度の高い言葉を吟味しようと思います。ありがとうございました。

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  3. それと作業を導入するっていう表現も主語がクライエントじゃない感じがするので私は使わないよう気を付けています。言葉は難しいけれど、力があるので作業療法士全員で気を付けて使っていきたいものですね。そうしたら自ずと他職種やクライエントからそういう存在として見てもらえるかと思っています。

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  4. 3年目のOTです。齊藤先生のお話は大変勉強になるので、いつもブログを拝見させて頂いています。ありがとうございます。
    今回のブログに出てくる「作業の意義」に関して質問があり、コメントさせて頂きました。
    今回「目的作業」、「手段的作業」、「実存的作業」についてのお話があったのですが、その中の「実存的作業」について考える際、先生はどのような視点・介入でクライエントの作業選択を援助しているのでしょうか?
    作業剥奪状態にあるクライエントは、受動的な傾向が強く、どのように関われば能動的な側面が引き出せるのか悩んでいます。
    お忙しい所恐縮ですが、ご意見を頂けたら幸いです。

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    1. 匿名様,コメントありがとうございます.確かに作業剥奪状態にあるクライエントは,自ら作業ニーズを表出できなかったり,受動的なことが多いですよね,やはり「どんな作業を提供しようか?」と考える前に,多面的にリーズニングを行うことが重要だと思っています.なので,例えばMOHOSTのように,クライエントや環境の様々な側面に関する情報を集め,統合しながら介入方法を考えていくことが大切なのではないでしょうか?ありきたりな回答になってしまい申し訳ありません.コメントありがとうございました.

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  5. ご回答頂きありがとうございました。
    多面的にクライエントと作業の関係性を捉えていくことを意識して、今後の臨床に取り組んでいきたいと思います。

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  6. 急性期病院に勤務していますOTです。
    先生のブログをわくわくしながら読ませて頂いています。
    勉強不足でして「目的作業」、「手段的作業」、「実存的作業」など、このような作業の内容や分類について知りたいのですが、どのような書物に記載されていますか?
    お忙しい所、申し訳ありませんが、教えて頂ければ幸いです。

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