20110224

準備はいつでも万全にして・・・







まだまだ寒い日が続きますが、ほんの少し春の足音が聞こえてきました。
ウチの回復期病棟のラウンジには、OT用の巨大な掲示板があります。
今日はTさんとKさんが、クライエント達と一緒に掲示板を彩る花の飾りを作っていました。
日中は空気の感覚質もどこか春の訪れを予感させます。



僕のクライエントのHさん。
何度か紹介している能面などの木彫のスペシャリストです。


発症から約3ヶ月、発語は一度もなく、栄養は経鼻経管栄養。
意識レベルはつい先日までⅡケタでした。


起居動作に若干の協力動作が見られるものの、
他の動作は全介助のままです・・・


毎朝僕は最初にHさんの所にいきます。
ROMの後端座位を少しとったら車椅子へ・・・
髭剃りと洗顔と整髪をします。


突然予想以上の変化が見られたり、他者との交流が可能になったとしても
社会的に見合ったスタイルで自分にアクセスできるように・・・


いつ家族や知人が来ても、彼とつながりのある人達が悲観しないように・・・


いつでも準備は万全にしています。





Hさんへの介入の後、僕は毎日午前中に
クライエントのTさんと五目ならべをする時間をとります。


父親の希望で、幼少の頃からプロの棋士になるようにと道場に入門し
将棋を指してきたTさん。囲碁などもプロ並の腕をもっています。


将棋も囲碁もあまり深く理解していないという僕の理由で(ごめんなさい)
五目並べ対決を毎日行っています。


今日はその対戦場面にHさんにも同席してもらいました。


僕の隣りにHさんに居てもらい、対戦を眺めていてもらいました。


何気なく僕は、Hさんに碁石を手渡すと・・・


なんとHさんは碁石を碁盤の上に置いたのです・・・


しかもちゃんと線の交差する場所に・・・・


そのまま僕は対戦をHさんに譲り、碁石を渡す役目にまわりました・・・


正直Tさんと互角に戦えるような置き方ではなかったけれど、
Hさんは柔らかい表情でゆっくりと碁石を置いていきます。


今まで能面を手渡すとじっと眺めたり・・・
ずれたメガネに手をかけたり・・・


Hさんの反応はその程度のものでした・・・


今日初めて彼は他者との作業をしたのです。


彼は終始笑顔で、碁盤を見つめていました・・・


途中からは、碁石を渡す役目も、Tさんにお願いし、
僕は少し離れて見ていました・・・


彼の脳出血は非常に広範囲に及んでいて、
予後予測に希望が持てる状況ではありませんでした。


管理的な視点で関われば、関節可動域の維持や
介助量の軽減を目標とした介入に終始していたかもしれません。


でも僕達がチームで共有した目標は、「絶対ベッドベースをゴールにしない」でした。


経管栄養のHさん・・・


言葉を全く発しないHさん・・・


ADL全介助のHさん・・・





一般的に見ても”寝たきり”の人にしか見えない人です。





車椅子に乗車して、座位がある程度保持できて、他者との関わりの中で心が動く・・・
そのレベルにまで達しなければ、間違いなくベッド上でケアされながらの生活が待っている・・・


彼に絶対にそのような文脈に落ち着いてほしくないと、
PTさんは毎日機能維持や体力維持の為の介入を熱心に実施してくれています。


ちなみにPTさんは、この間OTの研修会に参加してくれたKさんです。


僕は彼のプライドを維持する為のケアや、大切な物を使ったコミュニケーション、
他者との関わりの機会を、負荷がかかり過ぎないように配慮しながら継続してきました。


皆が彼の病前の作業やその功績を知っていて、毎日彼に話しかけてくれています。


看護師さんは、彼が集団場面に参加できるように、
経管栄養の時間調整などを配慮してくれています・・・


みんなでいつ戻ってくるかも分からない彼の為に、
準備を万全にして待っていました・・・


彼にこれからどこまでの変化がまっているのか?それは分かりません・・・


でも、どんなに麻痺が重度でも、


どんなに言語障害が重度でも、


どんなに介助量が多くても、


自分らしく生きる権利があるはずです・・


離床時間を拡大するために


何もせずに”ただ起きている”。


夜間覚醒しないように


日中”ただ起こしている”・・・


その介入の目標はなに?・・・


目標は誰のため?・・・


クライエントは一体だれ?・・・


刺激ってなに?・・・


医学的管理や機能維持は最低条件です・・・


刺激といわれる環境からの働きかけも、
愛情と、クライエント中心の思考と作業遂行文脈が伴わなければ
一瞬にして侵害刺激へと変貌し、遮断を助長することにもなりかねません・・・


彼は来室すると、いつも笑顔で応えてくれます。


そんなに余力が無いはずの車椅子乗車も、表情を曇らせたことはありません・・・


彼は作業したいんだと思います・・・


彼は病棟中の職員やクライエントの皆が、彼の作品を賞賛し、
話しかけることを分かっているんだと思います。


セラピストや看護師が、彼の自分らしさをすこしでも取り戻すために
介入していることを感じてくれているんだと思います。


僕の勝手な思い込みかもしれません・・・


でも思い込みは決して諦めではなく、希望の中に見出していたいと思います・・・
そう信じれるだけの介入をしていきたいと思います・・・


準備をいつも万全にしていたいと思います・・・




2 件のコメント:

  1. 今日、花が咲いた気がしました!!!!

    夕方、Sさんに面会の方がきてました、
    たぶん、御親戚か、お友達か、親しい間柄の人が。

    Sさんの顔や髪を丁寧になでながら、
    みんな笑顔で、
     
    何よりSさんの表情が、違いました。

    少なくとも、今まで私が見ていた表情とは全然違くて、
    笑顔なのか、みんなに驚いているのか、
    なんといっていいのか分かりませんが、

    とにかくいい顔をしてたんです!

    PTさんがちゃんと車イすに起こしてくれて、
    Sさんと皆を繋いでくれました。

    侍さんにみせたかったです。


    追伸;試験、色々ありがとうございました。
    また、来月研修があるので、宜しくお願いします。ヴォイスプロが憂鬱でなりません。

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  2. kibiさん ありがとう(^_^)

    今日は突然の半休すいませんでした。
    お陰さまで無事に車検証は再発行できました^_^;

    そうですか!Hさんが面会の方との関わりでイイ表情をしていたんですか。少しイイ表情を見せたくらいで大ニュースになるくらい、大きな変化がなかったHさん・・・ここ数日本当に過渡期がきていますね!

    本当に担当だけじゃなく、皆が彼のことを、そして彼の作業を見つめて毎日関わってくれているお陰です!本当にありがとう!

    彼の作業遂行文脈に即していない刺激の入力をただ続けていたとしたら、意識がはっきりしてきた時に、離床の苦痛などに対する反応ばかりが彼の意識を支配していたと思うんです・・・あれだけの出血で、あれだけ長い期間殆ど反応が見られなくて・・・でもはっきりしてきた途端に、あんなにイイ表情を見せながら部分的にも作業に従事できるようになって・・・まさに全員で準備を万全にして彼の帰りを待っていたという感じです・・・本当に×100000ありがとう(^_^)

    そして試験おめでとう!(^_^)
    本当によかったね!
    ヴォイスプロは確かに憂鬱だね^_^;

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