20141201

第55回 作業療法全国研修会






12月6日7日,奈良県文化会館で,第55回 作業療法全国研修会が開催されます.
僕は,6日の15:40から第2ホールでお話しさせていただきます.
全国研修会に参加予定の方は,よろしければ会場に遊びにきてください.
以下に抄録を掲載しておきます.



〜作業に焦点を当てた目標設定と実践〜
       学校法人こおりやま東都学園郡山健康科学専門学校 齋藤佑樹

 近年,国内外で作業に焦点を当てた実践が叫ばれている.クライエントの健康に寄与する作業を特定し,目標達成に向けたアセスメントを行い実践へと繋げていく過程は,作業療法士のアイデンティティを明確に示す道標となるものであるが,同時に,極めて個別性の高いその支援の形に,難しさを感じているセラピストも多いのではないだろうか.
 作業に焦点を当てた実践において大切なことは,セラピストが一方的な「指導者」としてクライエントに関わるのではなく,クライエントとセラピストが協働的立場で作業療法の過程を共に歩むということである.これはつまり,クライエント自身が自らの健康を作業の視点で振り返り,主体的に作業療法に参加することを意味している.しかしながら,クライエントが主体的に作業療法に参加することは容易なことではない.
 様々な疾病・障害を呈し,人生の転機ともいえるライフイベントを経験したクライエントは,目の前に現れる作業療法士の役割や,作業療法の専門性について正確に捉えることはまずできない.「リハビリ」という大枠でくくられたその認識は,過去にメディアを通して触れた情報や,漠然としたイメージの中で構築されたものであることが多く,これから始まる日々の協働を想像することは難しい.つまり,作業療法士とクライエントには,これから展開される作業療法に対するイメージに大きな隔たりが存在するのである.
 また,多くのクライエントにとってリハビリとは,いわゆる「障害の治癒」を表す概念として語られる言葉であり,残存機能を駆使し,環境を加工することによってもたらされる作業遂行の改善や,作業療法特有の段階づけの中で,もたらされる能力向上の過程は,クライエントにとって馴染みのないものである.つまり作業療法の難しさには,個別支援の多様性だけでなく,作業療法に対する認識など,様々な要素が内包されているのである.
 このような様々な課題を抱えながら開始される作業療法において大切なことは,クライエントが作業療法について知ること.目標設定に主体的に参加すること.小さな作業の可能化を重ねながら,障害を呈した「新しい身体」で自己実現の体験と解釈を重ねることである.
 セラピストにとっては当たり前の「作業療法」も,クライエントにとっては全く初めての経験であることをセラピストは理解した上で,クライエントの状態に合わせた説明を心がけなければならない.また,作業選択意思決定支援ソフト(Aid for Decision-making in Occupation Choice ; ADOC)やカナダ作業遂行測定(Canadian Occupational Performance Measure ; COPM),生活行為聞き取りシートなどに代表される面接は,セラピストがクライエントの大切な作業を「聞き出す」という姿勢ではなく,クライエント自身が自らの健康を作業の視点で振り返り,振り返りの道程をセラピストに表明し,表明された作業に内包される遂行文脈をクライエントとセラピストの両者が共有し,同じ視線を持った協働者となる姿勢が求められる.更にその実践においてセラピストは,クライエント自身が長期的な目標と短期目標を常に認識し,小さい可能化の積み重ねから肯定的な未来を予見し,更なる動機付けと目標の更新がもたらされるよう,身体面,心理面,技能面,環境面などあらゆる支援を伴走者として行うことが求められるのである.
 作業療法とは,単にクライエントの生活に必要な「動作」を現象的に改善する支援ではない.クライエントが,障害を呈しながらも,よりよく生きる姿を自らに問いかけ,作業を通してその姿を体現し,環境と結びつき,役割を得て,自分の人生を肯定し,更により良く生きようと問い続ける.そんな循環を支えるための専門性の発揮であるべきである.

 本講演では,演者の臨床経験を踏まえ,クライエントとの出会い,協働関係の構築,実践,クライエントの変化等について紹介しながら,作業に焦点を当てた目標設定と実践について述べる.





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