76歳 Eさん
三度の脳梗塞と腰部脊柱管狭窄症を既往にもつ
彼の願望作業は散歩だった。
春夏秋冬を問わず毎日二回散歩に出かけていた・・・
季節を楽しむこと・・・
毎日同じ人とすれ違い会釈をすること・・・
散歩がてら食事の買い物をすること・・・
大好きな古本屋まで歩き、掘り出し物を探すこと・・・
様々な語りを共有した。
病棟内歩行ADLが自立し、耐久性も少しずつ向上が見られたある日
初回外泊が決まった。
二人でグーグルマップを利用して
いつも歩いていた散歩コースを視覚的に確認。
休憩場所などの情報も共有した。
最終的に古本屋に立ち寄り、帰りに行きつけのスーパーで買い物をして
帰路につくコースを最終目標に設定。
段階的に距離を伸ばせるよう、同じ道を通らずに家まで帰るルートを
いくつも作成した。
Eさんは初回外泊時に予定コースに早朝でかけた。
次の月曜日、Eさんから提案があった・・・
○○ストアと古本屋に行った場合の距離を教えてほしい!
今回何m散歩できたのかも確認したい! とのこと。
早速マップで確認作業を行った。
それから毎週外泊を繰り返し
毎回少しずつ距離を伸ばしている・・・
もうすぐ退院日が近づいている・・・
まだ古本屋にはたどり着けない・・・
しかしEさんからは志半ばで退院するなどという後悔の念は
感じられない・・・
「これから涼しくなるから昼間歩けるようになる!楽しみだ。」
「そのうち古本屋まで歩ける気がする。どのくらい無理をしたら
明日に疲れが残るのかも分かるようになった。少しずつ自分で
目的地に近づいていけるだろう」
色々な前向きな語りも聞かれるようになった・・・
人生にはストーリーが必要だ・・・
肯定的観測のもとに生み出される“語り”が必要だ・・・
その語りがその後の人生に追い風を吹かせるかどうかは
語りが“作業経験”の元に生まれたかどうかだ・・・
彼は古本屋には当分たどり着けないかもしれない・・・
しかしもう退院しても大丈夫だと思った・・・
定期的な外来フォローは勿論予定しているが
彼は体力づくりのために歩いていない・・・
彼は大好きな“散歩”という作業を楽しんでいる・・・
古本屋を目指すのも“掘り出し物を選ぶ”のが好きだから・・・
語りの重要性と主体的に作業する人間のたくましさ・・・
彼の足取りから
私達が目指すべき形を
改めて教わった気がする・・・
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