20100926

足跡の意味

76歳 Eさん

三度の脳梗塞と腰部脊柱管狭窄症を既往にもつ

彼の願望作業は散歩だった。



春夏秋冬を問わず毎日二回散歩に出かけていた・・・



季節を楽しむこと・・・

毎日同じ人とすれ違い会釈をすること・・・

散歩がてら食事の買い物をすること・・・

大好きな古本屋まで歩き、掘り出し物を探すこと・・・



様々な語りを共有した。



病棟内歩行ADLが自立し、耐久性も少しずつ向上が見られたある日

初回外泊が決まった。



二人でグーグルマップを利用して

いつも歩いていた散歩コースを視覚的に確認。

休憩場所などの情報も共有した。



最終的に古本屋に立ち寄り、帰りに行きつけのスーパーで買い物をして

帰路につくコースを最終目標に設定。

段階的に距離を伸ばせるよう、同じ道を通らずに家まで帰るルートを

いくつも作成した。



Eさんは初回外泊時に予定コースに早朝でかけた。



次の月曜日、Eさんから提案があった・・・



○○ストアと古本屋に行った場合の距離を教えてほしい!

今回何m散歩できたのかも確認したい!  とのこと。



早速マップで確認作業を行った。



それから毎週外泊を繰り返し

毎回少しずつ距離を伸ばしている・・・



もうすぐ退院日が近づいている・・・



まだ古本屋にはたどり着けない・・・



しかしEさんからは志半ばで退院するなどという後悔の念は

感じられない・・・



「これから涼しくなるから昼間歩けるようになる!楽しみだ。」

「そのうち古本屋まで歩ける気がする。どのくらい無理をしたら

明日に疲れが残るのかも分かるようになった。少しずつ自分で

目的地に近づいていけるだろう」



色々な前向きな語りも聞かれるようになった・・・



人生にはストーリーが必要だ・・・



肯定的観測のもとに生み出される“語り”が必要だ・・・



その語りがその後の人生に追い風を吹かせるかどうかは

語りが“作業経験”の元に生まれたかどうかだ・・・









彼は古本屋には当分たどり着けないかもしれない・・・



しかしもう退院しても大丈夫だと思った・・・



定期的な外来フォローは勿論予定しているが



彼は体力づくりのために歩いていない・・・



彼は大好きな“散歩”という作業を楽しんでいる・・・



古本屋を目指すのも“掘り出し物を選ぶ”のが好きだから・・・



語りの重要性と主体的に作業する人間のたくましさ・・・



彼の足取りから



私達が目指すべき形を



改めて教わった気がする・・・

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