20110111

新しい身体で見つけた意味ある作業・・・ではなく、本当は昔から意味があった作業・・・


MさんのクライエントのHさん。順調に歩行やADL能力は改善してきているものの、本人から表出される希望や目標は、機能回復や歩行能力に関することばかり。なかなか自分の意味ある作業にむけたビジョンは表出されることはありませんでした。

先日MさんがHさんにADOCを使用して面接を行いました。iPadを使用しながら面接を進めていくと、病前の生活を構成していた様々な作業が表出されてきました。

その中で、意外な表出がありました。それは、ボランティアのイラストを見ながら面接を行っていた時のことです。

「この病気になってしばらくしてから考えていたんだけど・・・私と同じ病気の沢山の人や、高齢者達の話を聞いてあげるようなことをしながら生活していきたいの・・・」

それからMさんは、元気がないクライエントがいると、Hさんにお願いする形で、悩み相談をしてもらったり、1人で起きられないクライエントのベッドサイドに出向いていって、話し相手になったりなど、作業のコーディネートをしています。Hさんはイキイキとした表情で、歩行やADL訓練にも一層やる気が出てきたようです。退院後の資源の調整はこれからですが、是非、デイサービスをはじめとする地域のコミュニティで、新しい役割を遂行してもらいたいものです。

”今”は、過去の自分の道程と、未来のイメージとの統合から成る感覚に支配されています。過去の作業経験と、そこから予測される未来の発展的自己との合成的な感覚が今の自分のあり方を定位しています。しかし、過去の作業経験は、殆どの人は、健常な身体で成されたものであるため、障害を負った今、過去の作業経験から未来のイメージを構成することは難しく、今の自己が上手く定位できない状態に陥ります。だからこそ、再び過去の作業経験と、未来のイメージが上手く流れるように、そしてその統合から今を定位しなおすために、新しい身体での作業経験が必要なのです。

そのために私達作業療法士は、意味ある作業の共有を図ろうとします。その作業の持つ意味を、クライエントに再び感じてもらうように働きかけます。その時、どうしても作業を見つめる視点は、病前のクライエントの作業に向けられることが多いのではないでしょうか?特に医療機関ではそうかもしれません。

クライエントの過去に寄り添い、意味ある作業を共有することは勿論重要ですが、傷害を負った”今”、何をしたいのか?何か新しくやりたいこ思ったことはないか?、この部分にももっと目を向けなければいけないと感じさせてくれたエピソードでした。

Hさんは、病前から、友人達とのおしゃべりが大好きな人だったそうです。友達の悩み相談などにもいつも真剣に乗ってくれる明るく頼もしいお母さんだったそうです。もしかしたら、機能回復や歩行の改善ばかりに目が向いていると思っていたHさんは、誰よりも自分の大切な作業に目を向けていたのかもしれません・・・




              ADOC:作業選択意思決定支援ソフト





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