20120721

ボトムアップアプローチの順序を反対にすればトップダウンアプローチになるわけではない…



 
 観察評価が苦手とか,観察評価を重視する理由がよくわからないという声をよく聞きます.確かに「動作分析」とは異なる「作業遂行の観察評価」についての重要性は認知度が低いかもしれません.しかしトップダウンアプローチを実践する上で,観察評価はとても重要です.なぜなら作業療法士は「作業の可能化」を支援する専門職だからです.

 すなわち観察評価は,「どうすれば作業が可能になるか」を考える上で大変重要な評価なのです.健常な状態との違いが最大の関心事であるならば,機能障害を明らかにする検査や動作分析の重要度が高くなります.しかし作業遂行機能障害の原因が関心事であるならば,検査や動作分析だけではその原因を明らかにすることはできません.

 なぜなら,作業遂行は人ー環境ー作業の連関によって成立しているからです.その作業を行う環境で,その作業を行う人が,その作業を行うことで,はじめて作業遂行を阻害している因子が見えてくるのです.

 多くの作業療法士は,クライエントの作業を観察する際,現象を機能障害に結びつける「自己解釈」を介在させてしまうという専門職特有の問題を持っています.頭の中で現象を解釈に置き換えることを極力せずに,人ー環境ー作業を「見たまま」で評価することで,作業の可能化を支援するための介入は非常に柔軟性を帯びてきます.5日間のAMPS講習会でも,最初にトレーニングすることは,特別な技能を身につけるのではなく,自己解釈で凝り固まった頭をリセットして「見たまま」を評価するトレーニングをするのです.それだけ作業療法士にとって観察評価は大切なのです.

 トップダウンアプローチとボトムアップアプローチは,プロセスの順序の違いを指している言葉ではありません.作業療法士が,「自分が何を支援する専門職なのか?」その関心の違いを表す言葉です.

 クライエントが作業的存在としての健康を取り戻すことを作業療法の目的と考えるのならば,まず初めにするべきことは,クライエントにとって作業的存在としての健康とは?の問を明らかにすることです.その手段は当然面接が中心になるでしょう.クライエントの健康を構成していた作業を明らかにしたならば,次に立ち現れる関心事は,その大切な作業遂行を阻害している因子は何か?となるはずです.その関心は実際に作業を行なってもらい,観察することでのみ明らかになるでしょう.その阻害因子は,人ー環境ー作業のどれか,もしくは全ての要素から見つかるはずです.

 観察上の問題を抽出することができたならば,次に行うことは当然介入方法の検討です.あくまでも作業的存在としての健康を取り戻すことが最大の関心事ですから,その介入内容を決定するためには,色々な要素を加味することになります.どんなに効率的な方法であっても,クライエントの価値観の中で受け入れられない方法であれば,その手段を採用した作業遂行は,クライエントを「健康」へとは導かないかもしれません.反対に,環境を少し工夫するだけで,そのクライエントは大切な役割を再獲得できるかもしれません.もちろん機能訓練が一番の近道なことも多々あるはずです.

 すなわち,「作業の可能化」とは,単にその作業が効率的にできるということではなくて,クライエントの生活する文脈の中で,その作業を通して担っている役割を取り戻し,課題を解決し,大切な環境と結びつき,文脈における自分の性質を納得の範囲内で維持することを意味しているのです.

 このように,クライエントの作業的存在としての健康を支援しようとするならば,その介入のプロセスは自然とトップダウンアプローチになってきます.反対に,「機能回復させて,ADL能力をできるだけ改善させて,できれば趣味も獲得させよう」などと還元主義的で父権的な思考で作業療法を捉えれば,そのプロセスは自然とボトムアップになるでしょう(決して機能訓練などを否定しているわけではありません.目的と手段の扱い方についての言及です).

 昔,他部門の科長に「ボトムアップアプローチの方が,機能をしっかりと診れるんだ!.トップダウンじゃ機能が診れない!」と言われたことがあります.僕はそんな話をしているんじゃないんです.どっちが機能を診れるかなんて誰も言ってないでしょ?自分が何をする専門家なのか?その答えによって効果的なプロセスは自然と決まるんです.トップダウンとボトムアップ,どちらが優れているかなんて議論は全くもって無意味ですよね.


もうやめませんか?こんな争い…











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