担当のSTには「どこまで嚥下が回復するか」とは聞かなかった.
「カツ丼がどうしても食べたいから何とかして」と頼んだ.
彼が療養病棟に移って約半年.
ムセが増えてきて心配だからと2ヶ月前から点滴だった.
ある日突然「カツ丼が食べたい」と彼が言った.
今年で90歳.生まれてから一度も食べたことがないという.
節約しながらの生活.贅沢は敵.外食なんて数えるほどしかなかった.
カツ丼が憧れだった.テレビで見たことしかなかった.
点滴になってから彼は食べ物のことばかりが頭をよぎって,
ある日彼はティッシュを食べていた.
挨拶をしても,今日の具合を聞いても,天気の話をしても,
まず返答は「カツ丼が食べたい」だった.
ずいぶん前にSTは終了になっていたんだけど,
もう一度嚥下の評価を依頼した.
「一緒にカツ丼を作って食べましょう,だから飲み込みの練習を頑張ってください」
彼は1ヶ月頑張った.
STはこれが精一杯と言った.
もちろん常食を食べることはできない.
でもキザミ食は食べることは可能になった.
OT : 「そろそろカツ丼いいかな」
ST : 「肉無しなら大丈夫です」
OT : 「それはカツ丼じゃないじゃん(笑)何とかならないかな」
ST : 「ひき肉なら大丈夫です.材料は全てトロトロに煮込んでください」
OT : 「じゃあメンチカツで作ろう」
ST : 「とにかく柔らかく煮込んでください」
OT : 「当日は一緒にいてね(笑)」
来週いよいよ一緒に調理.
今夜は試しに「メンチカツ丼」を作ってみた.
感想は…僕が言う必要ないか…
0を1にする方法よりも,
5を6にする方法よりも,
希望を叶える方法をみんなで考えよう.
それが0を1にすることならば,
それが5を6にすることならば,
みんなで取り組もう.
0を1にすることじゃなく,
5を6にすることじゃなく,
希望を叶えることを目標にできたら,
0を1にできなくても,
5を6にできなくても,
他にも方法がありそうだ…
「希望を叶える」。
返信削除OTとは、まさしくその通りだと思います。
来週の調理、楽しみですね(^_^)
いとちゅーさん.ご無沙汰しております.
返信削除そしてコメントありがとうございます.
先日,このクライエントと調理を実施しました.
実際の表情をお見せできないのが残念ですが,
とにかくとても満足されていましたよ!
僕達は,クライエントの人生のほんの一部分に
関与させていただいているだけです.
僕達の力なんてほんの微々たるものでしょう.
でも,だからこそいつも作業の力を信じて
クライエントに向き合いたい.そう思っています.
読んでくださってありがとうございます.
saitoさん、ブログはいつも拝見させて頂いておりますが、
返信削除こちらこそご無沙汰しております。
いつも感じることなのですが、
saitoさんのクライエントに向き合う真摯な姿勢は、
文章を拝読して、非常に気持ちが落ち着きます。
ああ、ここにもこのように感じるOTさんがいらっしゃるんだと、
心が萎えそうなとき、僕の励みになっています。
「とても満足されていた」という、
そのクライエントの様子が見られなくて残念ですが、
作業の力、信じて行きましょう!