作業療法面接は,「聞き取り」ではありません.
作業療法士とクライエントの出会いの儀式です.
作業療法士がクライエントに自分の存在理由を表明する機会です.
クライエントが作業療法士の存在理由を知る機会です.
クライエントが作業的存在としての自分と出会う機会です.
クライエントが自分の人生を作業の視点で振り返る試みです.
クライエントが自分の人生を叙述的に加工する試みです.
作業療法士がクライエントの文脈にシンクロして,
横を歩くためのスタートラインに立つ始まりです.
ゆえに面接の成功とは,滞りなくクライエントが色々な作業を語り,
作業療法士が計画書に記載する作業項目を得ることではありません.
クライエントが作業療法士の存在理由を理解し,
自分の健康を構成していた理由を作業の視点で振り返り,
健康を取り戻すための共同作業が始まることをお互いが承認し合い,
恊働という文脈を形成するプロセスです.
作業療法士は,日々の恊働のなかで,
クライエントの作業遂行文脈を大切にするのと同じように,
クライエントにとっての「面接」という作業の遂行文脈を大切にすることが大切です.
作業項目を「聞き出す」ことのみを「成功」と捉え焦ってはいけません.
自分が何者なのか.クライエントにとってどのように力になれる可能性があるのか.
それをしっかりと伝えるべきです.
その後で,クライエントの生活の物語を共有してください.
大切な物語を共有する中で,
大切な役割や,日々の課題,自分のこだわり,人や物との結びつき,
色々な物語を,その価値観も含めて共有することができれば,
自然に恊働すべき作業に焦点が当たってくるものです.
ADOCのイラストは,
自分の生活を作業的な視点で想起できないクライエントをアシストします.
でもクライエントがイラストを選択しただけでは作業療法はできません.
もしも僕のクライエントが「料理」のイラストを選択したとします.
僕はクライエントの料理に対する想いを知りません.
どのような料理をどのくらいの頻度で作っていたのかを知りません.
どのような場所で,誰のためにどのような環境的制限の中で作っていたのかを知りません.
イラストの選択は「はじまり」です.
そのイラストを入り口と捉えて,
クライエントの作業遂行文脈を共有するプロセスが必要です.
モノクロのイラストの扉を開けて,
そのイラストに一緒に色をつけて帰ってくるようなイメージでしょうか.
解釈学によると,解釈者の「地平」,または「観点」,つまり解釈者の文化的・歴史的状況,現在の立場に基づいた先入観は,経験に対して与えられる解釈の成り立ちに寄与するのである.Clarkが用いた治療アプローチでは,彼女は作業科学者としての自分のパースペクティブを,Richardsonの障害体験をめぐる物語のパースペクティブと融合させようと努めた.セラピストと生存者の両者は,最初はそれぞれ独自の理解の「地平」をもっている.しかし,会話が展開するにつれて「おのおのが参加している地平」と,そこで時間を共有しているという感覚が生じてくる.Gadamerは,この過程は,単に人が自分の考え方の枠組みを主張することを通じて形成されるのではなく,「以前のままの自分たちにもはやとどまってはいないという共有の状態への移行」通して理解する感覚に至ものであると述べている.Clarkは最初は彼女の理解地平に浸っていたが,Richardsonとの会話を続ける事を通じて考えず移行した.似たような過程がRichardsonの中でも生じた.Richardsonは,障害をもつという経験に対してClarkをはるかに鋭敏にさせた.代わりにClarkは作業についての知識をRichardsonの観点に吹き込んだ.
by Florence Clark,PhD,OTR,FAOTA,
Bridget Larson Ennevor,MA,OTR/L,
and Penelope L.Richardson,PhD(Posthumously)
A Grounded Theory of Techniques
for Occupational Storytelling
and Occupational Story Making
ADOC
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