20110429

トルクレンチと左手と技能を僅かに追い越す意思と大好きな作業とクライエントは誰かということ・・・




夕方、少し時間が出来たので、新人のSさんと一緒に病棟を離れ、作業療法室に向かいました。PC室でクロスインパクトマトリックスの説明をした後に、近くで介入を行っていた後輩のIさんとクライエントEさんの元へ。Sさんと一緒に見学することにしました。

Eさんは、感覚の脱失した左手の巧緻動作と、力の微調整を行う練習をしていました。Eさんはイキイキとした語り口で僕たちに話します。ずっとバイクが大好きで、オフロードのチーム競技に参加していたこと。度々仲間と全国をツーリングしていたこと・・・みんなで盛り上がりました。

僕は正直心配していました。入院直後から、Eさんがバイク好きで、再びバイクに乗ることを目標に、日々のリハに励んでいたことを知っていました。僕もIさんに相談されて、何度か彼の身体機能を評価し、プログラムのアドバイスをしたことがありました。

画像や発症時期から考えても、バイクに再びまたがることは、正直厳しい状態でした。しかしそれをEさんには伝えることはせず、目標に向かう協業の中で、彼の能力の自己認識の変化を見守ることにしていたのです。

久しぶりに彼とバイクの話をしました。彼は以前と同様に、バイクに対して熱い情熱を持ち続けていました。しかし、以前と少し様子が違いました。

おそらくもう競技に出ることはできない。でも毎日の練習経過から、整備はまた出来るかもしれないと思います。チームに同行して、レース前後のマシン整備に関われたらと思います。ボルトはトルクレンチで締めていくので、長めのレンチを使用すれば、力の無さは代償できると思います。問題はビスです。ビスは繊細に真っ直ぐに入れることが要求されるので、今、その感覚を掴む練習に力を入れています。

彼は歩行レベルでADLが自立し、日常生活は全く他人の手を借りずに生活することが可能です。もうすぐ車の運転も再開予定です。

彼は自分の大切な作業に、新しい自分がどう関与するか?していけるか?を非常に現実的なビジョンを描いていました。そして実現に向けてIさんと協業していました。

~がしたい。でも今は手が完全に治っていない!だから今は手を治すことだけに専念します・・・意味ある作業を共有していても、結局焦点は身体機能の改善にのみ当たっている・・・機能回復への固執が、実際の作業遂行の障壁になるということはよくあることです。

でも彼は今の体で、意味ある作業に従事する新しい作業形態を思い描いていました。それに向けて現実的な練習をしていました。意味ある作業への想いが技能を僅かに追い越して、その想いが技能の現実的な形を工夫させ、実現に向けて加速するような協業をしている後輩のIさんの姿に、すごく嬉しくなりました。新人のSさんにも、作業療法とは何か?を考えてもらえる理想的な場面を見せることができました。

これから仲間と新しい作業が始められるかもしれない・・・だからIさんのクライエントは、目の前のEさんだけじゃなく、他にもいるかもしれないね!それだけを伝えてスタッフルームに戻りました。今日もみんなありがとう。





~coming soon~





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