精神病院のなかで,
もっぱら精神障害者の治療として行われてきた作業療法は,
いまでは理学療法と肩をならべて,
リハビリテイション医学の重要な治療技術として発展してきている.
錬金術から化学が,
呪術や魔法から臨床医学が脱皮成長してきたのと同じように,
作業療法も,はじめに理論があって,
計画的に人々がそれを推し進めてきたわけではない.
それは「狂人の人たち」のみとりての素朴な知恵から自然発生的に
作り上げられてきたのである.
しかし歴史をふりかえって見ると,
他の分野には見られない特徴がある.
それは,
作業療法が精神障害者に対する差別との闘いのなかで,
主張され,実践されてきたということである.
身体や精神を積極的に活動させることに
狂気からの脱出の原則を見いだしたアスクレピアデスは
人間の精神を無視したヒポクラテスの体液医学への批判者であったし,
近代精神医学の黎明期といわれる18世紀末から
19世紀前半にかけての作業療法の発展は,
精神障害者の物理的及び精神的桎梏からの
開放の具体的実践として登場したのである.
シドニイ・リヒトが書いているように,
作業療法は,大西洋の両側で,
人民が平等と自由のために闘った時にはじめて実現したのであった
作業療法のこのような性格は,
それが精神障害だけを対象とする時代から,
もっと幅広く身体障害及び心身障害一般にかかわりをもつ
リハビリテイション医学の発展した時代にあっても変わることはない.
作業療法のこの根本理念を忘れる時,
作業療法は魂を失い,
単なる人間機械の修理技術に堕してしまうだろう.
秋元波留夫:作業療法の源流.金剛出版.1975. 序文より引用
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