20120216

動機付けと環境


 作業行動パラダイムの中心概念は人間の動機付けである.その重要性ゆえに,ライリーの教え子達は早くからこの概念に取り組んできたし(Florey,1969),いまだに論議が続けられている(Bell,1975;Burke,1977;Sharrott&Cooper-Fraps,1986).動機付けは環境と切り離しては理解できないものである.

 フローリィ(1969)は作業療法には内発的動機付けが最も適切であると提起した.「内発的動機付けは,有能な行動を支える自立的行為に対する自己報酬に向かって形成される」(Florey,1969).活動それ自体の完成に対する満足感は内発的に動機付けらている.有能性が有能性を育てるがゆえに,フローリィ(1969)は子供や大人の有能性を育む環境条件を細かく記述した.

 児童期の遊びは内発的動機付けの発達にとってきわめて重大である.遊びにおける決定的な環境要因は,人間の存在と,慣れ親しんだ対象物の中での新奇な非人間的対象物の存在である.その環境は,探索や反復,有能な役割モデルの模倣を可能にし,空腹や恐れや痛みなどのストレスのないものでなければならない.年長の子供の環境は道具,生産性に役立つ指示,友達や,スポーツマンシップとクラフトマンシップを持つ大人のモデルと交流する機会を提供しなければならない.

 成人期では,内発的動機付けは達成と関係づけられる.課題はその人の能力の範囲内での挑戦を与えるものでなければならない.その環境は,結果に対して責任をとることを育て,また結果に対するフィードバックを示すものでなければならない.

 人によっては,優秀さの基準がある場合には競争が達成を育む(Bell,1975).それゆえ,競争的行動には,課題・自己・他者と関連づけた優秀さの基準が必要となる(Florey,1969;Bell,1975).ベル(Bell,1975)は競争が動機付けとなるような人を明らかにするために,危険を冒すことと競争との相関関係を用いた.

 ライリーの指導の下で書かれたバーク(Burke)の修士論文(Burke,1977)は,人間は周囲の環境と効果的に交流するよう動機付けられているとする,個人的原因帰属感(personal causation)という概念を,人間の動機付けを理解する手段として詳述したものであった.この内的動機づけは主に環境の変化を作り出すことに向けられる.現在の行動の効果に対するフィードバックが将来の行動の指標を提供する.このようにして,生活の無限の挑戦への適応が生じ,人間性が長らえるのである.

 バーク(1977)の4つの理論的説明が個人的原因帰属感の概念の根底となっている

1.成功は成功感をもたらし,それがさらに成功をもたらす.
2.自分を周囲の環境を統制しているとみている人は,積極的な行動を示す.
3.自分が障害に取り組む技能をもっているという信念は,統制感を生み出す.
4.価値意識は,自分自身の力を用いて自己の環境を変えることと結びついている.

 シャロット(Sharrott)とクーパーフラップス(Cooper-Fraps,1986)は,内発的動機付けの欠如と作業行動における機能障害とを結びつけ,そうした機能障害を規定するために,自己に対する満足度の欠如と社会に対する満足度の欠如という2つの基準を示した.このように,人は自己の作業役割から満足を引き出すことができなければ,機能障害となる.機能障害はまた,役割遂行が社会の基準に合致しない時にも生じる.

 ライリー(1966)はおそらく作業療法の分野で最初に環境の管理を声高に唱えた人であろう.彼女は1965年のアメリカ作業療法協会総会での講演で,「病院環境は,その環境にもかかわらずではなく,その環境ゆえに患者の日常生活技能を改善できる場でなければならず,そうあるべきこと,またこの同じ概念の発展的延長上に家庭や職場や学校があることを,我々はまず認識するべきである」(1966)と述べた.作業行動パラダイムに取り組んだ研究では環境的背景を避けて通ることは殆どできないが,ライリーの教え子の数人がこのテーマに直接取り組むことを選んだ.

 グレイ(Gray,1972)は,身辺処理,社会的・一般的あるいは特殊な仕事の技能といった日常生活(仕事ー遊び)の技能に否定的な影響を及ぼしかねない,病院環境の条件や実践も記述している.彼女はまた,時間,レジャー時間,意思決定能力の喪失に影響する治療をも述べている.引き合いに出された治療には,適切な役割モデルとなるべきスタッフの怠慢,特殊な技能領域における患者の評価の欠如,患者に病院場面内での技能の練習を促すことの欠如などがある.

 パレント(Parent,178)は,感覚および知覚剥奪と,固定や社会的孤立の影響に関する文献を検討した.ここで示された入院患者に対する剥奪や孤立の影響は,意味のある作業が入院患者の機能状態の維持にきわめて重要であるという作業療法の立場を支持するものである.

 クラビンス(Klavins,1977)は,作業療法における患者の行動に対する文化的影響の重要性を協調した.「文化は人間環境の一部として,生活を特徴づける特別なものなのである」(Klavins,1972).仕事ー遊びの行動はその人の属する文化的集団が持つ価値によって影響される.セラピストは,多様な文化的背景を持つ患者達の価値や信念の構造を知り,受け入れ,その中で働かなければならない.

 ダニング(Dunning,1972)は環境心理学の分野の研究を参考に,空間・人々・課題という環境の構成要素の分析を通して,環境研究のための分類体系を展開した.空間は,テリトリー,プライバシー,そしてその環境内の 混雑度や対象物という見地から分析される.社会的役割関係や社会的距離は民族の構成要素である.課題は,存在・入手性・好ましさ・実現可能性という点で,対象物や空間の利用可能性を通して分析される.ダニングは,特定の環境,変化の可能性,および変化に対する好みを示した格子を作成した.彼女は自分の分析法を精神科外来患者に応用した.

                             (引用文献:作業療法実践のための6つの理論ー理論の形成と発展)


 

0 件のコメント:

コメントを投稿