今日は横浜でMTDLP(生活行為向上マネジメント)の教員対象研修に参加させていただきました.研修の内容は,講義で学生に伝える上での要点などをご教示いただけると思っていたのですが,教員に対して更なる啓蒙をお願いすることがメインで,特に内容に触れてはいませんでした.
研修会の講義自体は1コマ程度だったのですが,その後で会場と主催者による質疑が約二時間ありました.そこでの質疑の内容の一部を紹介しながらボクの感想を書きたいと思います.
会場より:作業に焦点を当てることを重視すると言っているが,基本的プログラム(ROM訓練や筋力増強訓練など)がかなり重視されており,結局ボトムアップと変わらないのではないか?
この質問についてですが,基本的プログラム=ボトムアップは少し表現が正確ではないと思いました.参加されていたある先生が,「あくまでも作業目標を達成するために必要な基本的プログラムという位置づけだと思う.だからこそ基本的プログラムという表現は修正が必要かもしれない」と補足されていましたが,ボクも同感です.しかしながら,AMPSが見たままを評価することを重視しているように,作業遂行の問題を考える上で,すぐに非効果的遂行の原因を機能障害に帰結させて考えることはスマートではないと思います.基本的プログラムという項目が,上記の思考を助長しないような工夫や対策は必要かもしれません.
一方で,日本の作業療法の処方状況をみてみると,超急性期から理学療法を同時に処方されることが多いのが現状です.機能回復や,機能の増悪を予防するうえで,クライエントの作業遂行の土台を整える技術や関心は必要だと思います.しかし私達は人の営み(作業)の持つ力を誰よりも熟知している職種です.心を動かす手段を使って機能の向上を支援できれば理想的だと思います.そして機能が回復することとが,必ずしも意志を伴った作業遂行の改善につながるとは限らないことを作業療法士は知っていなくてはいけないと思います.
主催者より:MTDLPは良い!ということを伝えるだけでなく,MTDLPをつかったけれど上手くできなかった事例も集積し,原因を究明していかなくてはならないと思います.
これは少し視点を変える必要があると思いました.そもそもMTDLPを使用して上手くいった事例はMTDLPを使用したから上手くいったのでしょうか?ボクの印象では,おそらく現在MTDLPを使って本当に効果を出せるセラピストは,作業科学などの基礎学問や,各種理論を学んだ方達だと思います.上手くいかなかった事例を検討する前に,上手くいったセラピストの評価〜介入のプロセスの中で,MTDLPの構造に包括されていないどのような要素をセラピストが用いているのかをしっかりと整理すべきであると考えます.そうすれば,より多くのセラピストが,MTDLPを使用した質の高い実践ができるよう,対策を行うことが可能であると考えます.
主催者より:急性期や精神科では使いづらいという意見があるので,MTDLPのフォーマットは随時改訂していこうと思います.
これはどうなのでしょうか?あくまでもボクの個人的な意見ですが,MTDLPのフォーマットはこれ以上改訂しなくて良いと思っています.ただし,生活行為聞き取りシート等のプロセスで,パターナリスティックな意思決定を内包する柔軟さは必要だと思います.これがセラピストの盲目的なパターナリズムを助長することに必ずつながってしまうので問題なのですが…
そもそもICFは作業療法の理論でなければプロセスモデルでもありません.ICFに準拠したアセスメントで作業療法士の「頭の中」を全て可視化すること自体に無理があります.その脆弱性を,重箱の隅をつつくように周囲が批判し改訂を迫り,改訂を繰り返しながら脆弱性を補完していったとしても,どんどん複雑な用紙が増えるばかりで,多忙を極める実際の臨床現場では形骸化が助長されるだけだと思います.それよりは,ツールとしては現状程度の内容にとどめ,しかし質の高い使用を担保するためには,◯◯や◯◯などの学習が大切です.と表明することのほうが重要なのではないでしょうか?これは教員に啓蒙を進める上でも大切なことだと思います.
今日の研修では,シラバスの中にMTDLPをを組み込んでほしいとの依頼がありましたが,その依頼に留めるのではなく,MTDLPを多くの作業療法士が効果的に使用できるために,◯◯や◯◯の科目でしっかりと◯◯や◯◯について教育してほしい.という依頼を同時に行うことこそが建設的でかつ現実的・効果的な方策であると思いました.そもそもMTDLPは使用者に技術を与えるものではないのですから.
しかし今日の質疑を拝聴していて強く感じましたが,話し合いは建設的にしたいですね(笑)10年前を考えてみれば,協会が作業に焦点を当てることを推進してくれているということは,本当に素晴らしいことです.
協会は,国に作業療法の効果を認めてもらうために日々奮闘してくださっています.国に認められること.OTに普及させること.質を担保すること.複数の課題を一度に抱え,全ての緊張を解くための精一杯の形態が現在のMTDLPなのだと思います.それに対してアラ探しをすることは簡単です.ボク達は協会のお陰で日本という環境で作業療法士を名乗り,保険点数を貰い,家族を養っていることをもう一度考えて,安易に「批判」するのではなく,叡智を集結させながら,実現可能性の高い「提案」をし合っていかなければならないと思います.
ボクも教員の端くれとして,多くの学生が作業療法の本質を深く理解し,MTDLPをはじめ,多くのツールをクライエントの利益に結びつく使い方ができるよう,そしてそれらの道程の集積の結果が,国が作業療法の効果を認める一助となるよう,日々努力していこうと思いました.
本日ご講義してくださった講師の方々,そして作業療法の未来の為に,日々奮闘してくださっている協会の方々,本当にありがとうございました.
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